膝の痛み

 夫が娘婿とゴルフに行く日に、私はなかなか治らない膝を見てもらいに、新しく出来た近くの整形に行こうかと思っていました。最近会う人々は私より若くても膝が痛いと嘆くので、どうやったらよくなるのかいろいろ聞いていて、注射も薬も嫌だけれど、何とかしないとと考えながらスーパーへ行った帰り、偶然息子が少年野球をやっていた時の監督夫人に会いました。彼女に膝が痛いと言ったら、突然自転車を降りて私を近くの壁の前に立たせ、いろいろ体を触って調べ出し、簡単な施術をはじめました。そういえば気功をやっていらして、ずいぶん前に見てもらったことがあって、夫がゴルフに行く日に家へ来てくれることになり、私がよく声を掛けてくれたとそのタイミングに驚いているのです。

 私は身長が高いのでどうしても背中が丸くなり背骨も曲がっているのと、三十代で子宮頸がんになり子宮や卵巣、リンパも取ったのでそのひずみもあり、若い時は何とか誤魔化して過ごせていたけれど、年を取るとなかなかそうもいかずそのひずみが痛みとなるとのこと、ベッドに寝ている私の体中を正常な形にして、いかにそれを持続できるかということが課題だそうです。彼女の子供たちが骨折したりけがをした時に義父や夫にとても世話になったから、お礼の気持ちで施術をしてあげると言ってくれるのを有難く思いながら、十年前にピラティスに通って体の歪みを整えてもらったのだけれど、それからコロナウィルスや介護や看取りなどに翻弄されているうちに、今度は自分が皆に面倒をかけてしまう年齢になったことを痛感しています。

 彼女が帰った後、身体が格段に楽になっていることに感謝しながら、身体の歪み、精神の歪み、環境の歪み、世界のゆがみが恐ろしいくらいに大きく蔓延っていることに愕然としているのだけれど、正しい方向性さえあればなんとか生き永らえて仕事もできると希望も持てたことに感謝しています。髪の毛を紫と赤に染めた台湾のファンキーな女の子に好きな本は?と聞いたら、ジョージオーウェルの「1984」だと教えてくれたので、メルカリで買って読んでいるのだけれど、あまりに暗くて陰湿で閉口して、途中で結末を読んだり解説をめくったりルール違反をしながらやっと読み進めています。とても有名な本なのだけれど、実は完読した人が一番少ないそうで、皆途中で辟易してしまうのも無理はない。でもあの台湾の女の子は何かを抱え、それだからこの本を読んでいるのです。明るく別れを告げた彼女をハグして抱きしめたら、胸が詰まって泣きそうになり、手で顔を仰いで必死で涙をこらえて立ち去った姿を見送りながら、抱えているしこりや歪みを感じていました。一生懸命1984を読んでいるうち、もしかして物凄く大事なことがこの中にかかれている気がしてきました。今日は風が強く吹いています。何かが起きているようです。